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    「おい、早く早く」

    真黒い顔の男が傍によつて訊いた。

    このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。

    あるとき一人の女の客が私に話をした。

    「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」

    「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」

    房一には連れが二人あつた。

    もう一度小学校の校庭まで辿り着いた時には、衣裳がくたくたになつたのと疲労し切つたのとで、行列をつくつて歩いている間に自然と現れていた共通の類似、あの正面を切つたまじめさが消え失せ、代りに日頃のそれぞれな持前が、尖つた顎だの鹿爪らしい顔つきだのいふものが今や歴然と姿を現した。まだ解散にならぬ前から気早やに冠をかなぐり取つた者もいたし、衣裳をぬぎにかゝつた者さへあつた。

    房一は怒つたやうな嘲あざけるやうな調子であつた。その顔は何故か黒ずんで見えた。そして、目がぎらついていた。

    「どうしませう、ほんとうに!すつかり落しておしまひになつたんですのね。――どうも、さつきから様子がちがふと思つていたんですが、道理で!――さうでしたわねえ、お髯がなくなりましたわねえ」

    と、房一が進み出た。

    盛子のお腹では、もう胎動がはじまつていた。

    「いつから――?」

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